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2022.7.28 抄読会

2022.07.29

2022.7.28

抄読会

 

今回読んだ論文もCOVID-19関連の論文です。

COVID19診療に携わるということは後遺症や合併症などCOVID19に関連する疾患や症状に関しても当然、精通している必要があります。

今回の論文はCOVID19における深部静脈⾎栓症および肺塞栓症のリスク、および出⾎リスクを評価した論文です。

この論文以前のCOVID-19罹患後の静脈⾎栓塞栓症のリスクに関する先⾏研究では、相反する結果となっていました。また、メタアナリシス研究で静脈⾎栓塞栓症の発⽣率は約13%と報告されていましたが、パンデミックの第⼀波であったため重症患者が主な対象となっており、現在の感染状況には当てはめにくいものでした。

 

<今回の論文>

Katsoularis, I. et al. Risks of deep vein thrombosis, pulmonary embolism, and bleeding after covid-19: nationwide self-controlled cases series and matched cohort study. BMJ 377, e069590 (2022).

 

<研究の目的>

スウェーデンでCOVID19陽性と判定された全患者において

深部静脈⾎栓症および肺塞栓症のリスク、および出⾎リスクを評価した。

スウェーデン公衆衛生庁の感染症サーベイランスシステムを用い、2020年2月から2021年5月までの期間におけるSARS-CoV-2検査陽性例(初感染者のみ)の個人識別番号を特定して、スウェーデンのCOVID-19全患者約105万7,174例をSelf-controlled case seriesで解析した。

<方法>

COVID-19罹患後1〜7⽇、8〜14⽇、15〜30⽇、31〜60⽇、61〜90⽇、91〜180⽇のリスク期間に初めて静脈⾎栓塞栓事象または出⾎事象が発⽣する発⽣率⽐および95%信頼区間を算出し、対照期間(2020年2月1日~2021年5月25日のうち、COVID-19発症の-30~0日とリスク期間を除いた期間)と比較した。

COVID-19 患者1名につき、年齢・性別・居住所がマッチされたSARS-CoV-2 陽性非該当者を対照者として4名特定した。COVID19群と対照群でCOVID-19罹患後1-30 ⽇間の静脈⾎栓塞栓症または出⾎のリスク⽐および95%信頼区間を比較した。

 

<結果>

COVID19陽性者:105万7174名、マッチされた対照者:407万6342名

①Self-controlled case series研究について

対照期間と比較して、深部静脈血栓症はCOVID-19から70日後、肺塞栓症は110日後、出血は60日後に発症率比が有意に上昇した。肺塞栓症の発症率比は,COVID-19発症後1週間で36.17(95%信頼区間31.55~41.47)、2週間で46.40(40.61~53.02)であり、COVID-19発症後1週目の発症率比が有意に高かった。COVID-19 発症後 1~30 日の発症率比は、深部静脈血栓症が 5.90(5.12~6.80) 、肺塞栓症が 31.59(27.99~35.63) 、出血が 2.48(2.30~2.68 )であった。

 

②マッチドコホート研究について

潜在的交絡因子(合併症、癌、手術、長期抗凝固治療)の影響を調整した後のCOVID-19発症後1〜30日目のリスク比は、深部静脈血栓症が4.98(4.96〜5.01)、肺塞栓症が33.05(32.8〜33.3)、出血が1.88(1.71〜2.07)であった。率比は,重症COVID-19患者で最も高く,第2波、第3波と比較して、スウェーデンの第1波の間に最も高かった。同期間におけるCOVID-19患者の絶対リスクは、深部静脈血栓症が0.039%(401例)、肺塞栓症が0.17%(1761例)、出血が0.101%(1002例)であった。

 

<Limitation>

 

論文自体の内容は以上です。

基本的に中等症以上の患者では血栓予防が推奨されていますが、軽症患者でもPE、DVTのリスクが上昇していることは外来等で診療するにあたり念頭に置くべきことでしょう。軽症患者に「自宅療養中にエコノミークラス症候群にならないように気をつけましょう」と説明する必要もあるかもしれません。初回PEは発症3ヶ月まで、初回DVTは発症6ヶ月まで発症リスクが高いという結果になりましたが、実際にどこまでを予防期間としたほうがいいかについては確定的な指針はありません。今後もCOVID19と血栓・出血についての研究には要注意です。

また、本論文は欧州における第3波までの研究となっていますが、これらのパンデミックは日本で流行したデルタ株やオミクロン株が主ではなかったことに注意が必要です。DVT、PEの検査方法も不明でした。そのほか、潜在的な交絡因子の可能性も言及されていますが、経口避妊薬の使用はどうだったのか気になるところです。