2022.11.24 抄読会
- 2022.11.25
- 未分類
今回読んだ論文は少し志向を変えて、院外心停止時の難治性心室細動患者に対する新たな除細動方法についての論文です。
もし、街中で目の前で心肺停止に出くわしてAEDで何度ショックしても成功せず、救急車も到着しない、なんて場面があったら試してみても(?)
<今回の論文>
1. Cheskes, S. et al. Defibrillation Strategies for Refractory Ventricular Fibrillation. N. Engl. J. Med. 387, 1947–1956 (2022).
<背景>
北米においてVFやPulseless VTを呈した患者の生存率は、PEAやAsystoleの患者よりも高い。しかし、除細動器の技術発展にも関わらず、VF/ Pulseless VT患者の約50%が複数回の除細動でも改善しない難治性心室細動である。
再細動を防ぐためのアミオダロンやリドカインなどの抗不整脈薬も退院までの生存率や神経学的予後良好の生存率を改善することは証明されていない。
Double sequential external defibrillation(DSED)やVector-change (VC) defibrillationといった除細動の方法が院外心肺停止の状況下の症例報告、観察研究、システマティックレビューで報告されている。しかし、これらの報告は最後の治療オプションとして使用されているためバイアス等の問題があった。また、Pilot studyによってDSEDの早期適用は、標準的な除細動よりもVF停止とROSCの割合が高い可能性が示唆されていた。
※本論文における難治性心室細動の定義
- 初期波形がVF/Pulseless VT
- リズムチェックと標準的な除細動を3回施行
- 4回⽬のリズムチェックでVFが残存
※本論文におけるDouble sequential external defibrillation(DSED)
- 2台の除細動器を使用し
- 通常のパッドの位置(前-外側)+左前胸部-左後背部の合計4箇所にパッドを配置
- 2台の除細動器から急速順次ショックを与える
※Vector-change defibrillation (VC)
- パッドを通常の位置(前-外側)から前-後に切り替える方法
<研究の目的>
院外難治性心室細動患者に対して
DSEDとVC除細動は
標準除細動と比較して
生存退院率がどうなるか
を評価することを目的した
<方法>
- クロスオーバーによる3群クラスター無作為化比較試験
- 場所:カナダのオンタリオ州
- 期間:2018年3月から2022年5月まで(新型コロナの影響で2020/4/4~9/8まで中止)
- CPR施行者:各地域の救急隊員約4000人
- 組み入れ基準
下記基準の全てを満たす患者- 18歳以上
- 院外心停止
- 心原性難治性心室細動が推定される患者
- 除外基準
- 外傷性心停止,DNAR患者,溺死,低体温,首吊り,薬物過剰摂取の疑い
- ランダム化
- 救急隊員レベルでコントロール
- 割付順序はコンピューターで作成
- 各グループは6ヵ月ごとに3つの治療群(標準的除細動、VC除細動、DSED)のいずれかにクロスオーバーされた。
- Intervention
- 基本的にAHAガイドラインに従い心肺蘇生を行う
- リズムチェックは2分毎
- 4回目の除細動は各割付けられた方法で施行
- Outcome
- Primary Outcome:生存退院率
- Secondary Outcome:Vf停止、ROSC、退院時神経学的予後良好
- サンプルサイズ:1群あたり310人→計930人に設定
- 統計学的解析
- intention-to-treat解析
- 感度分析:受けた治療毎の解析、per protocol解析
<結果>
- 405名の患者がランダム化された。87.7%が割り付けられた通りの除細動が実施された。
- 標準的除細動群136名(全体の33.6%
- VC除細動群144人(35.6%)
- DSED群125人(30.9%)
- Primary Outcome
- <退院生存率>
- 標準群18名(13.3%)
- VC群31名(21.7%)【相対リスク[vs標準]1.71,95%CI:1.01~2.88】
- DSED群では38名(30.4%)【相対リスク2.21,95%CI:1.33~3.67】
- <退院生存率>
一般化線形モデルによる差の検定では全体として有意な結果が得られた(P=0.009)
- Secondary Outcome
- <VF停止率>
- 標準群92名(67.6%)
- VC群115名(79.9%)【相対リスク1.18, 95%CI:1.03~1.36】
- DSED群105名(84.0%)【相対リスク1.25, 95%CI:1.09~1.44】
- <ROSC率>
- 標準群36名(26.5%)
- VC群51名(35.4%)【相対リスク1.39, 95%CI:0.97~1.99】
- DSED群58名(46.4%)【相対リスク1.72,95%CI:1.22~2.42】’
- <神経学的予後良好率>
- 標準群15名(11.2%)
- VC群23名(16.2%)【相対リスク1.48, 95%CI:0.81~2.71】
- DSED群34名(27.4%)【相対リスク2.21, 95%CI:1.26〜3.88】
- <VF停止率>
- 算出された主要評価項目の脆弱性指数
DSED群9名、VC群1名
- 感度分析
Primary Outcomeの結果は複数の感度分析の結果とも一致していた
<考察(抜粋)>
- 2台目の除細動器を用意することが困難である可能性があるが、1台の除細動器でVC除細動を行うことは,代替治療法として有効である可能性がある。
- DSED実施時に除細動器の損傷や誤動作があったという報告は1例もなかった。
- 生理学的機序:先行研究で電圧および電流勾配が低い領域からVfが再開されたと報告→DSEDの除細動エネルギーの増量が有効の可能性。後方構造である左心室の解剖学的位置は、標準的な前外側電極パッド間の直線から最も遠い心臓の領域である→VC除細動で除細動のベクトルを変えることで有効な領域を通る可能性がある。
<Limitation>
- COVID19の影響でサンプルサイズ達成できなかった。Primary Outcomeのイベント数が少なかったため、治療効果が過大評価された可能性がある。
- VC除細動についての結果は、不安定性指数1で、Secondary Outcomeの一貫性も低いため、今回の結果は慎重に解釈する必要がある。
論文自体の内容は以上です。
サンプルサイズの問題は残念でした。
今後の研究に期待です。